フィリピンが教えてくれた日本人スタイリストのグローバルな未来
スタイリストとして活躍するかたわら、ヘアドネーションや海外でのカット・ボランティアなどのSDGs活動に約10年前から取り組み、フィリピンに早期スタイリスト育成学校を設立したヘアサロンDONNA(奈良県)の代表、佐々木勝さん。佐々木さんをボランティアや学校設立に駆り立てるものは何かと聞いたところ、そこにはサロン業界の未来に対する佐々木さんの熱い思いがありました。前後編に分けて紹介、今回は後編です。
前編もぜひお読みください。
―前編では、フィリピンにスタイリスト育成学校を設立した経緯を聞きました。美容師免許が要らないこと以外にもフィリピンを選んだ理由はありますか?
僕は教育や育成が好きなので、いつか学校をつくりたいと思ってはいたんです。最初は日本国内でと思いましたが、日本は法律などのハードルが高く、難しさを感じました。次に考えたのがニューヨークかパリ。日本人が多く住んでいてニーズもありそうですが、物価が高く予算に合いませんでした。
そんな中、ボランティアで行ったフィリピンが、まさに学校設立にぴったりの地だったんです。一番は、美容師免許がなくてもカットができるので、学生のカット実践数が確保できる点。日本だと1個5000円のウィッグでしか練習できませんが、フィリピンなら100円でカットモデルをしてくれる人がたくさんいます。物価が安いので、学校建設費も人件費も、何もかも低予算で済む点が魅力でした。
―フィリピンでのサロン運営は稼げますか?
正直、フィリピンでは稼げません。カット料金は日本円で1000円がやっとの国ですから。生徒にもその点は伝えます。稼ぐことが目的なら、経済成長中の国へ行き、日本人が多く住む町のサロンで働くほうがいい。フィリピンだと月収2万円ですが、例えばシンガポールなら月収30万円です。また、サロンのオーナーにとっても、日本人スタイリストが入れば、その町の日本人をごそっと集客できるわけですから、万々歳です。
フィリピンの人たちが通える美容学校をつくりたい
―佐々木さんもいずれは経済成長国への出店をお考えですか?
僕自身は、これ以上の海外出店は積極的に考えていないです。もう、稼ぐとか儲けるとかの段階ではなくて。美容師が「やっていてよかった」と思える場所の提供をしていきたいと思っています。
ただ、海外、特にフィリピンの人たちのために、美容師学校をつくってあげたいとは思っています。
日本人の多くは、生活にそれほど苦労していませんよね。年収200万円でも500万円でも、なんでもいいから食べようと思えば、何かしら口にすることはできます。フィリピンには、一口の食料も買うお金もない人たちがたくさんいます。
この国でのボランティアで出会った人や、学校で働いている現地の人たちの中には、美容師になりたいと言ってくれる人がでてきました。
そんな彼らの夢をかなえるため、実はコロナ前にフィリピンの人たちが通える美容学校を建てたんです。開校まであとひと息のところでコロナ禍になってしまい、維持費がかかるため、やむなく手放しました。
コロナが落ち着いたら、協会を立ち上げるなど何かしらの方法で、フィリピンの美容業界に貢献したいと考えています。
海外で成功するための条件とは
―海外で成功する人、しない人の特徴はありますか?
日本で成功しない人が海外で成功するのは無理です。私は日本でサロンを10店舗経営していますが、そのノウハウがあっても、海外に1店舗構えるのは大変でしたし、黒字化するまでに10年かかりました。
まず、日本で独立して、最低でも1店舗運営できることが前提です。その1店舗は、自分の集客力があれば運営できるはずですから。
また、フィリピンに限って言えば、さまざまな業種で出店した日本人がいますが、3年経って残っている人はほとんどいません。日本とフィリピンでは、人の仕事に対する向き合い方がまったく違います。日本人ほど厳格に仕事を遂行しないのが普通なので、日本の感覚で商談をすると失敗します。
語学力で例えると、日本人は「Hello」が言える程度で英語が話せるとは言いませんが、英語圏の多くの人は「こんにちは」が言えれば日本語が話せると考えます。つまり、「できる」と言われて信用して任せたら想像とはまったく違う結果になり、日本人は騙されたと思ってしまうわけです。
―ボランティアやヘアドネーションなどの活動は今後も続けていく予定ですか?
ボランティアは、僕の美容師人生の原点です。ヘアドネーションは、積極的に活動している友人たちの大事なライフワークであり、僕のサロンワークの一つでもあります。これからも続けていくと同時に、今後は自分の経験を生かし、「夢はあるけどどう行動すればいいか分からない」人に夢をかなえる方法を教えたり、場所を提供したりしていきたいと考えています。