これからの美容師に必要なのはサステナブル感覚
東京・新宿を中心にフリーランス・スタイリストとして活躍するAKIHIROさん。スタイリストとしてだけでなく、髪質向上の技術講師としても活動しています。フリーランスになった経緯やメリット、デメリット、未来の美容師像などについて語ってもらいました。
―フリーランス歴は何年ですか?
美容師になってからは約11年ですが、フリーランスになったのは4年前からです。自分がイメージするスタイリストでありたい思いと、正直あまり協調性があるほうではないので、フリーランスの道を選びました。
自分より先にフリーランスになった美容師の友人から「フリーランスのほうが向いていると思うよ」と言われたことも、決断のきっかけになりました。
―フリーランスになる前となった後で、どんな違いがありますか?
フリーランスになって分かったことは、レギュラーサロン(美容師を社員として雇用し営業するサロン)で当たり前に受けていた教育や情報提供は、とてもありがたいものだったということです。
フリーランスになると、教育や情報を定期的に与えてくれる人はいません。自分で積極的に情報を取りにいってアップデートしないと、いつの間にか取り残され、古い技術・情報しかない美容師になってしまいます。
フリーランスは一人で何でも決められますし、売れば売るほどダイレクトに自分の売上になります。この点だけで見るとフリーランスは自由で楽に感じますが、一人稼業ということは、集客も接客も経営もすべて自分で考えて動かなければいけませんし、明日の仕事、明日の収入の保証もありません。僕は結婚していて、子どもが3人いますから、稼がなくてはいけない。毎日必死です。
これらのことから、「なんとかなるだろう」と思うタイプの人や、自分で勉強することが苦手な人は、フリーランスは向かないかもしれないと、僕は思います。
―フリーランスの美容師として活動を続けていくために必要なことは何ですか?
オンリーワンのセールスポイントを持つことでしょうか。
僕のセールスポイントは、圧倒的に美しく手触りが良いトリートメントです。圧倒的な仕上がりの良さを提供するため、成分や薬剤の勉強をしました。
シャンプーやトリートメント、カラー剤の構造が理論的に分かるようになると、組み合わせによる髪への影響や、お客様に合わせた薬剤の選択への正確性が高まり、結果、より多くのお客様を美しい髪質に導くことができます。
さらに、セールスポイントの希少性を高めるために、「完全マンツーマン美容師」というキャッチコピーでブランディングしています。
トリートメントで差別化するための2つのポイント
―トリートメントの仕上がりで差別化するためのポイントはありますか?
主に2つのポイントがあります。
まず1つは、トリートメント剤を使う前に、乳化剤などの残留物をしっかり髪から除去しているか。きちんと除去したかどうかで、トリートメントの効果や仕上がりの美しさは大きく変わります。
2つめは、美髪剤はメーカーが決めた手順通りに使うこと。メーカーは、一番いい仕上がりになる手順を研究して見つけ、提供しています。これを自己流にアレンジしてしまうと、ベストの仕上がりから遠ざかってしまいます。
例えば、「しっかりタオルドライした後に使用」と決められているトリートメント剤を、さっと水分を払っただけで使ってしまうとか、薬剤を塗って5分間待てばいいのに、長時間のほうが効果が高いと思って10分待ってしまうなどです。
成分や薬剤の知識がある人は「なぜその手順になっているのか、なぜその手間が必要なのか」が理解できるので、基本に忠実に実施すると思います。仕組みを理解した上で自己流にアレンジするならいいのですが、理屈が分からないまま自己流にしてしまうと、ベストの状態から質が低下してしまう可能性があります。
これらの知識を正しく伝えたくて、美容メーカーのMADENAと組んで、美容室業界全体の技術向上を目的としたセミナーの開催をするようになりました。
「サステナブルな美容の提供」が長く活躍する美容師の道をつくる
―これからの美容師に必要なスキルは何だと思いますか?
自分たちの仕事と社会の動きを連動して考える習慣は必要だと思います。
僕は今、「サステナブル・ビューティー」をコンセプトにしたサロン講師をしています。サステナブルとは「持続可能な」という意味です。
世の中は今、無駄な資源の消費を無くしたり、長く働ける労働環境を目指したりするなど、持続可能な社会づくりに動いています。
美容室に対しても、お客様は「安ければラッキー!」的な考え方よりも、少し価格が高くても、上質の仕上がりが長く続き、そのぶん通う回数を減らしたいと思う人が増えているので、その気持ちに合わせた技術・サービスの提供が求められます。
フリーランスで活動するならなおさら、社会動向に関心を持ち、併せて積極的に最新の情報を取りにいくことが大事だと思います。知識の幅を広げるために、他の美容師さんと情報交換する機会を持つこともお勧めです。
編集後記
セミナーの講師も務められているだけあり、とてもロジカルかつ、力強くひとつひとつの質問に答えてくださったAKIHIROさん。
技術だけでなく情報のアンテナも常にはり、自身を高め続ける姿勢はフリーランスならではの緊張感と、全ての責任を自分で背負うことの覚悟がにじみ出ていました。
これからもっと働き方が自由になっていく中で、参考になるお話しをたくさん聞けました!